草木染を科学する その1-伊賀でもっと草木染をー (地域資源利活用研究会報告)

2015.10. 1

久松 眞 伊賀研究拠点 副所長



 植物から染料を抽出して布に染める一連の作業から、昔の人々の生活の知恵は現代科学でも十分説明のつく技と気づ

かされます。素朴な草木染めは昔の人とのつながりも感じ、普段の生活から解放された気にもなれるので意外と楽しも

のです。染め物にも漢方の生薬にも利用され伊賀で栽培でき入手可能な植物資源との発想で、本研究所では紅花、藍、

キハダを選び昨年度から研究をしています。

 紅花栽培の復活に取組む市民団体「紅ばなネット(代表峠美晴)」が開催する講座で紅花染めを勉強しました。伊賀

地域で紅花はたくさん栽培されていたことが芭蕉の俳句から分かるとか。左の写真は、芭蕉の愛した紅花を伊賀から発

信の一コマ(mahonavi.003962 )です。今年の夏は若者たちを代表し上野高校理数科1年生が夏の学習で紅花染めを体

験しました(iga.mie-u.ac.jp/150803uenokoukou)



伊賀の畑で紅花の採取の様子





上野高校性の紅染め体験の様子

 

 紅色素は十二単衣や口紅など身分の高い貴族の女性が利用したのに対し、雑草のごとくたくましく生育する藍は庶民

・農民が利用した染料で、忍者の衣装としても関係が深いものです。伊賀研究拠点では藍の水耕栽培や露地での栽培を

始めました(写真左)。栽培した葉を摘んで藍染も行っています。残った茎を栄養剤が入ったバケツに入れておくと数

日で根と若葉が出てきます(写真中央)。一方、薬木キハダの栽培は農事組合法人の小林茂久代表理事らが伊賀で進め

てこられました。樹皮の内側(写真右、小林理事より)のコルク層は黄檗(オウバク)といい古来生薬としての利用の

ほか黄色染料としても使用されてきました。 

                        
      
         建物の隅で藍を栽培              茎からすぐに根が       キハダの皮を剥いだところ
  植物から抽出される天然色素には、水に溶けにくくアルカリに溶けやすい性質のものが多いです。このような化合物

は酸で中和すると沈殿性となり繊維に付着しやすくなります。草木染の多くは、このような性質を利用して行われてい

ます。植物に含まれる天然色素を抽出するアルカリ性物質としては、わら灰や木灰の上澄みの灰汁(あく)が利用され

てきました。植物にはカリウムやナトリウムなどのアルカリ金属が多く含まれ、灰にすると残ります。今では、灰汁を

作る作業は大変なので代用品として炭酸カリウムや炭酸ナトリウム(ソーダ灰)を使用したりします。アルカリを中和

する酸性の試薬としてはお酢や烏梅(うばい、写真左)を使います。灰でまぶした梅の実を下から熱風で燻して乾燥さ

せたのが烏梅で平安時代から伝えられる技術(写真右)です。現在伊賀から西へ車で20分ほど走った奈良県月ヶ瀬に烏

梅を作っている最後の農家さんがおられます。梅やレモンなどの果実にはクエン酸が多く含まれます。一般に烏梅の代

用品として市販のクエン酸を使用します。しかし、上野高校の学生さんには本物を体験してもらうため、月ヶ瀬の辰巳

先生にお願いしわら灰と烏梅を使用した紅花染めを指導していただきました。
 

烏梅
 

烏梅を乾燥させる窯の様子(烏梅製造パンフより)
 次回は、紅花染、藍染、キハダ染の体験を順次報告いたします。 
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