伊賀の神社・鎮守の森めぐり(その7)

2015.5.22



荒 木  利 芳 社会連携特任教授
土 屋  竜 太 研究員
紀 平  征 芳 研究員

 

前回(その6)天児屋根命、手力雄命、天押雲命を祀る伊賀の神社について述べましたが、第7回目は天忍穂耳命(勝手

神社
八柱神社(福川))、猿田毘古神(木代神社須智荒木神社)高倉下命(高倉神社)を祀る神社をご紹介します。


なお、上述の青色の文字をクリックすると各神社の説明があります。


正哉吾勝勝速日天忍穂耳命

 正哉吾勝勝速日天忍穂耳命はアマテラスとスサノオの誓約(うけい)によって生まれたアマテラスの長男である。イザナ

ギはイザナミのいる黄泉の国から帰還したときに行った禊ぎによってアマテラス、ツクヨミ、スサノオを生み出した。アマ

テラスとツクヨミは父の命令に従いそれぞれ天上の国と夜の国を治めていたが、海を治めるように命じられていたスサノオ

は亡き母に会いたいと務めを放って泣いてばかりいたため、地上では災いが起こっていた。そのためイザナキはスサノオを

勘当する。スサノオは母に会うために黄泉の国へ行く決心をするが、その前に姉のアマテラスに別れの挨拶をしに行く。

しかしながらスサノオは大男で普通に歩いても地響きがするため、アマテラスはスサノオが自分の国を奪いに来たと勘違い

し、戦の準備をして待ち構えます。驚いたスサノオは母に会いに黄泉の国へ行く前に別れの挨拶をしに来ただけだと言うこ

とを説明しましたがアマテラスはなかなか信じようとはしません。そこでスサノオは「それぞれが
誓約をして、子を生んで

みよう」と提案します。こうして天の安河をはさんで誓約をすることになります。まずアマテラスがスサノオの長剣をもら

い受け、それを三つに折り、聖水でで洗い清めた後に、口に含み噛み砕いた後、吹き出すと、三柱の女神が生まれる。

次いで、スサノオはアマテラスの聖なる勾玉をもらい受け、口に含んで噛み砕き、大きく吹き出すと五柱の男神が生まれる

。この時最初に誕生したのがマサカアカツカチハヤヒアメノオシホミミの命である。この神は造化三神の一柱であるタカミ

ムスビの神の娘タクハタチジヒメと結婚し、天孫降臨神話の主役ニニギの命をもうける。

 神格は稲穂の神、農業神で、神徳は農業・工業・鉱山の守護神で、勝運、招福、家門繁栄、商売繁盛、入学、就職、結婚

、厄除け、病気平癒などの成就。




猿田毘古神

 天孫降臨では当初オシホミミが地上に降りて治める予定であったが、若々しい神の子のほうがより相応しいであろうとい

うことで、オシホミミとタクハタチジヒメの間に生まれたニニギが降臨することになる。葦原中国に出発するに当たり、八

柱の神(アメノコヤネ、フトタマ、アマノウズメ、イシコリドメ、タマノヤ、オモイカネ、アメノタヂカラオ、アメノイワ

トワケ)がニニギに従って地上に降りることになる。いよいよ地上へ向けて出発し、道が八本に分岐する天の八衢にさしか

かったとき、そこに立っていたのが鼻の長さが1.2メートル、身長は12.6メートルもある猿のような、または天狗のような

怪奇な風貌をしたサルタヒコの神である。ニニギ一行はこの正体不明の男神を怪しく思い、アメノウズメを使わしてその素

性を問いただしたところ、「天孫の道案内のために来た国つ神である」と答えたため、道案内を許され、ニニギ一行は無事

に日向の高千穂まで辿り着くことができた。

 サルタヒコはその後アメノウズメと結婚し、伊勢国の狭長田の五十鈴川のほとりに帰って住んだとされる。三重県鈴鹿市

の椿大神社がサルタヒコを祀る神社の総本社で、全国では伊勢神宮内宮近くにある猿田彦神社を初め二千余社を数えている

 神格は導き(道案内)の神、道の神で神徳は交通安全、延命長寿災難・方位除け、厄除開運、商売繁盛、殖産興業などで

ある。


高倉下命

 ニニギの曾孫にあたるカムヤマトイハレビコ(神武天皇)は高千穂では葦原中国を治めるのに不便と考え、東征を開始す

る。豊国(大分県)、筑紫国(福岡県)、安芸国(広島県)、吉備国(岡山県)ではこの日嗣の御子に抵抗するものはなく

、順調に通過することができたが、白肩津(大阪)に上陸したときはナガスネヒコノの抵抗を受ける。そのため追撃をかわ

して進路を変え、紀国(和歌山県)に向かう。その途中での戦いで傷を負った兄のイツセの命が命を落としてしまう。イハ

レビコ一行は紀国をぐるりと半周し、熊野村の浜に上陸し、徒歩で北へ向かうことにする。熊野の森を進むと大熊が吐く毒

気にあたり、全員が気を失ってしまう。それを助けたのがタカクラジの命である。突然現れたタカクラジから渡された聖な

る剣を受け取ったイハレビコは荒ぶる神々を滅ぼしてしまう。命を助けられたイハレビコがタカクラジに剣のことを問うと

、夢の中に高天原の神々が現れ、倉の中の剣を天つ神の御子に届けるように告げられたと話しました。

 すなわち、イハレビコ一行が毒気で倒れるのをみたアマテラスとタカミムスヒは軍神タケミカヅチに助けに行くように命

じたが、「自分の代わりに、地上の国土平定の時に力を発揮した布都御魂剣を下しましょう」といい、熊野の土豪であった

タカクラジの夢枕に立ち「剣を天神の子に献上するように」と告げる。翌朝目覚めてタカクラジが倉をのぞくと、剣が倉の

屋根を突き破って床に突き立っていたそうである。こうしてタカクラジはその剣をイハレビコに渡し、その霊剣により、イ

ハレビコは反抗する豪族達を打ち負かし、従えていくことになる。そして最後はナガスネヒコと再び交戦し、それを打ち破

ることになる。

 タカクラジの神格は倉庫の神で、神徳は倉庫業の守護である。